• AIアイドルとは?
  • AIアイドルの活躍
  • 日本と海外のAIアイドルの利用状況
  • AIアイドルに対する日本人の印象は?
  • 日本と海外のAIアイドルに関する課題
  • AIアイドルの課題に対する専門家の解説
  • まとめ
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【調査結果】- AIアイドルの好感度は2割程度、肖像権への認識薄く -「AIアイドル」の現状と活用の課題

特集記事 10.12.2023 1 mins
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Written by ExpressVPN
【調査結果】- AIアイドルの好感度は2割程度、肖像権への認識薄く -「AIアイドル」の現状と活用の課題

この記事のポイント

・TVCM起用や、AIアイドルグループのデビューなど何かと話題の尽きない「AIアイドル」の今後の活躍が注目される一方、著作権侵害や倫理・道徳面などの課題も散見されている。

・AI技術の進化に伴い、今後はよりリアルな外見と声を持つアイドルが登場すると予測されるなか、世間一般でAIアイドルに期待される内容について解説。

・日本と海外のそれぞれの利用状況と新たな課題について具体例とともに紹介。

・日本人のAIアイドルに対する認識を調査したところ、現状AIアイドルの好感度が2割程度に止まっていること、一方で、AIアイドルに恋心を抱いたことがある人が約5%いることなどが判明。さらに、自分にそっくりなAIがいても、6割の人は何もしないという結果に。

・AIアイドルの課題について専門家は「著作権の問題のほか、肖像権・パブリシティ権にも注意が必要であり、AIアイドルに関する法的議論はまだ始まったばかりだが、技術進化の目まぐるしいスピードに遅れを取らず議論が深化していくことが期待される」と解説。

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近年、SNSやTVCMで「AIアイドル」を目にする機会が増えました。見た目は本物の人間そっくりで、「言われて初めてAIだと気づいた」という方も少なくないようです。2023年に入ってからは、国内初のAIアイドルのTVCM起用や、AIアイドルグループのデビューなど、何かと話題は尽きません。AIアイドルの今後の活躍が注目される一方、著作権侵害や倫理・道徳面などの課題も散見されます。

ExpressVPNでは、AIアイドルに関するアンケートを実施し、20代から60代までの日本人約3,000人のAIアイドルに対する認識を調査しました。調査では、AIアイドルの好感度や、AIアイドルに恋心を抱いたことがあるかどうか、そして、AIアイドルにまつわる肖像権への認識などが明らかになりました。オンラインのネットワークはVPNで保護できますが、ある日自分がAIタレントとして画像や動画になっていたら、どう対応したらいいのでしょうか。

さらに、AIアイドルのさらなる活況を見据えたうえで、生成AIと著作権の問題について、詳しい専門家よりAIアイドルの課題について解説していただきました。ぜひご覧ください。

■目次
AIアイドルとは?
- AIアイドルの作成方法は?
AIアイドルの活躍
- AIアイドル活用のメリット
日本と海外のAIアイドルの利用状況
- 日本の場合
- 海外の場合
AIアイドルに対する日本人の印象は?
日本と海外のAIアイドルに関する課題
- 新たな課題
- 日本の場合
- 海外の場合
AIアイドルの課題に対する専門家の解説
まとめ

AIアイドルとは?

AIアイドルとは、生身の人間としては存在しない、生成AIの技術によって作成されたバーチャルアイドルのことです。

AI技術の進化にともない、テキストや画像など、さまざまなコンテンツを生成できる生成AI (Generative AI) がビジネスシーンも含めて複数の業界で活用され始めています。

生成AIが登場する前の従来のAIも、入力された膨大なデータを学習し、結果を出力する機械学習の技術はありました。

例えば、企業サイトのサービスページに設置してあるチャットボットなどが身近な事例です。しかし、これらは構造化されたものが多く「処理」や「理解」だけで構成されており、全く新しいものを「生成」する技術ではありませんでした。

一方、生成AIは入力されたデータのパターンを学習し、新しいコンテンツを「創造」する点で全く異なります。生成AIで「創造」できるものには、ChatGPTなどのテキストや画像、音楽だけでなく、動画や音声も含まれます。そして、そうした多ジャンルの技術を結集してついに生み出されたものの一つが、AIアイドルです。

しかし、架空のアイドルをテクノロジーによって生み出す発想は、決して新しいものではありません。例えば、1994年にはコナミが恋愛趣味レーションゲーム「ときめきメモリアル」を発売し、メインヒロインだった「藤崎詩織」らが「バーチャルアイドル」として認知されました。

また、2007年には、DTMソフトウェア(デスクトップパソコンを利用して楽曲制作を行う手法の総称)から「初音ミク」が登場。歌だけでなく、動画やフィギュアなどのメディアミックスも盛んに行われ、社会現象になりました。

これと並行して、1990年代以降のインターネットの普及とデジタル技術の進化により、2020年代にSNSが浸透したことで、アイドルとファンの距離が急速に縮まりました。それ以前のファンのアイドルとの接点と言えば、コンサート現場やテレビ番組だけでした。しかし、現在はYoutubeやX(旧Twitter)、Instagramなどを活用して、自身のチャネルを使った発信ができると同時に、SNSのDMやコメントなどの機能を通して直接的なやり取りも可能になりました。こうしたテクノロジーの進化により、新しいビジネスモデルやエンターテインメントにイノベーションが起きたのです。

AIアイドルはテクノロジーの発展と革新の歴史の中に誕生した、いわば「テクノロジーとアイドルの融合」の最新形態といえるでしょう。

AIアイドルの作成方法は?

テクノロジーの進歩によって誕生したかつてないほどにリアルなAIアイドルは、どのように生成されるのでしょうか?それを可能にしたのは、2014年に発表された「GAN(Generative Adversarial Networks:敵対的生成ネットワーク)」と呼ばれるディープラーニングをもとにした生成モデルです。2つのニューラルネットワークを競わせてデータを学習させることから、そうした名称で呼ばれています。

この技術では、データの特徴を抽出して学習し、実在しないデータの生成や既存のデータに沿った変換、元データの特徴を踏まえた新しいデータの生成ができます。そのため、GANの使用によって、高画質の画像生成やリアルタイムの動画変換などが可能になりました。当初、GANには学習の不安定さや生成データの種類が偏るなどの課題が指摘されました。しかし、現在では敵対する「Generator(生成ネットワーク)」と「Discriminator(識別ネットワーク)」の相互監視のレベルが向上し、切磋琢磨(せっさたくま)することで生成の精度が高まってきています。

2018年には、京都大学発のベンチャー「データグリッド」がGANを活用して、架空のアイドルの顔画像を自動生成するAI技術を開発。2019年には、高精度の全身生成モデル画像を安定して生成することに成功し、人物としては実在しない全身モデル画像を広告やアパレルECで展開する道が開けました。

同年、株式会社ジーンアイドルが、画像生成AI、音声合成AIにより、ユーザーが自分だけのオリジナルアイドルを作れる「A.I.dols Codebase」のβ版をリリースするなど、GANを活用して生成したAIアイドルは著しい速度で進化し、展開されています。

AIアイドルの活躍

AI技術の進化に伴い、今後はよりリアルな外見と声を持つアイドルが登場すると考えられています。ここでは、世間一般でAIアイドルに期待される内容について解説します。

AIアイドル活用のメリット

AIアイドル活用のメリット

①自分の希望通りのアイドルの作成が可能
生成AIによって作成するAIアイドルなら、見た目や性格を自由にプロデュースできます。今後エンタメ業界では、AIを活用して各ユーザーに最適化したAIアイドルを一瞬にして作成することが一般的となり、AIアイドル商戦においてはより斬新な企画や切り口などのアイデアが求められるでしょう。

②24時間365日、時間に関係なく最高のパフォーマンスで活動できる

今や、オンラインをメインにしたアイドルの活躍の場が増えています。SNSを用いたファンとのコミュニケーションが重要になる中、AIアイドルは休憩や睡眠を取る必要がないので、SNSでの会話など多様なコンテンツを24時間いつでも世界中のファンに継続提供できます。

③人間のアイドルには感情や体調があるが、AIアイドルは常に合理的

AIアイドルはデータやアルゴリズムに基づき行動するため、感情の波がありません。常に合理的な選択をするよう学習しています。ただ、それはAIアイドルのメリットでありながら、デメリットでもあります。なぜなら、ファンの共感を生むためには、アイドルそれぞれの「感情」や「感性」も重要な要素だからです。AIアイドルが人間を模倣する取り組みには今なお高いハードルがあります。

④不祥事がない

AIアイドルは感情や体調の波がないことから、衝動的な行動をしません。その選択はデータにもとづき、常に合理的だからです。企業などがAIアイドルを活用する際、「不祥事によってブランドイメージが下がったり損失が発生したりする」という心配が無用なのはメリットといえます。

⑤本物のアイドルよりコストがかからない

本物のアイドルを活用する際にかかる人件費やスタジオ代、メイク代等が全てかからないため、低コストで活用することが可能です。

⑥グローバルな活躍が可能

AIアイドルなら、多言語化や多様な文化に対応するようにパーソナライズも容易に行えます。各国のユーザーから愛される特徴をおさえたAIアイドルを作成し、グローバルに展開することが可能です。

日本と海外のAIアイドルの利用状況

今後ますます活躍の幅が広がることが見込まれるAIアイドルですが、実際はどのように活用されているのでしょうか?ここでは、日本と海外の利用状況について具体例を紹介します。

日本の場合

2023年6月、TikTokアカウントを開設して数日で100万回以上再生された「19歳港区女子」が登場しました。自らを「神宮寺藍」と名乗り、多くの人の注目を浴びましたが、人物としては実在しないAIインフルエンサーでした。神宮寺藍のキャラクターは「努力して30キロ痩せた」と設定されており、男性だけでなく女性からも支持を集めたようです。神宮寺藍のプロフィールには、「X AI Agent」と記載されていますが、はっきりした作成者は分かりません。

同時期にX(旧 Twitter)のフォロワーが一気に8万人を超えたAIインフルエンサーに「天音あい」がいます。「日本人と中国人のハーフ」「18歳、高校3年生」「身長152センチ」「趣味はコスプレ、グラビア」「好きなことは食べること、写真」とキャラ設定が細かく、一部投稿は1.3万件以上の「いいね!」が付きました。

2023年9月には、伊藤園のTVCMにAIタレントが出演。AIタレントがTVCMに登場する国内初の例となり、注目されました。TVCMは白髪でしわのある女性が「未来の自分を今から始める」というセリフとともに、若い姿に戻るという設定。伊藤園によると、現在と未来の姿をどう表現するかを考えた末にAIアイドルを起用することに決めたそうです。

そして、2023年11月には、ついにAIアイドルが国内で初めて楽曲配信リリースデビューすることが決定。架空AIアイドルは「ダダダ団」と呼ばれ、デビューソング制作応援プロジェクトを実施するのは、microverse株式会社が運営するNFTクラウドファンディングプラットフォーム「BloomPad」です。

こうしたマーケットでのAIタレント需要の高まりに応えるために、AIタレント事務所も発足。AIタレント事務所「ER‵A‵ROR-project」は新しいエンターテイメント文化を作り上げ、さまざまな分野のタレントを日本から世界中に発信することを目指しています。

また、2023年8月に株式会社Emposyによって立ち上げられた「AIタレントエージェンシー」にはAIタレントがLINEアカウントを持ち、おしゃべりLineトークをするサービスを展開。会話はもちろん、写真送付をオーダーすることも可能です。今後、AIアイドルがライブ配信しながら、視聴者と会話を楽しめるサービスのリリースも構想中とのことです。

海外の場合

2022年に画像生成AIが一般ユーザー向けにも公開され、米国のAI開発企業が「Midjourney」を、英国のAI開発企業が「Stable Diffusion」をリリースしました。これらのサービスはテキストの入力により指示通りの画像を生成できるもので、無料で利用でき、しかも生成した画像の商用利用も可能です。これにより、生成AIによって生み出される画像は毎日100万枚以上になるとさえ言われています。

世界各国で生成AIが活用されたプロモーションが展開されていますが、いくつかの例を挙げましょう。

2023年、自動車メーカーの「フォルクスワーゲン」はブラジルでの創立70周年を記念し、「ブラジルの美空ひばり」と呼ばれることもある、故エリス・レジーナをAIによってよみがえらせ、CMに起用。共演したのは、エリス・レジーナの娘であるマリア・ヒタで、母親が運転するのは1960年代に活躍したフォルクスワーゲンの「コンビ」、そして娘が運転するのは2023年末に発売予定の電気自動車「アイディーバズ」で、過去と未来が交錯し、共に歩んでいく姿を描きました。

このCMはブラジルの大統領夫人をはじめ、多くの著名人によって好意的に捉えられたものの、しばらくしてから倫理的観点から見た是非が問われる事態に発展しました。故人の意思や功績と関係なく、勝手にAIによってよみがえらせて、CMに起用するのはどうなのか、ブラジルでは大きな議論が巻き起こったのです。

アメリカでは、世界各国から多種多様なパフォーマーが集まり、賞金100万ドルを競うオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント (AGT)」に、スタートアップ企業「Metaphysic」が参加し、AIでリアルタイム合成するパフォーマンスを披露しました。

ステージに現れた3人のオペラ歌手の顔の部分だけに、3人の番組審査員の顔がそれぞれ合成され、まるで本当にオペラを歌っているかのような姿になったことで、会場は興奮の渦に巻き込まれました。さらに、同番組で「Metaphysic」は1977年に死去したエルビス・プレスリーをAIによって生き返らせ、パフォーマンスを披露しています。

2023年3月には、ベトナムでも国内発となるAIバーチャルシンガー「アイン」が登場。リアルさを追求するために、アインには呼吸音などの人間の自然音も多く採用されています。また、アインはアイドルになることを志向している設定で、プロのマネジメント会社によってステージパフォーマンスのスキルを身につけていくことで、ファンの共感を生むのが狙いです。

AIアイドルに対する日本人の印象は?

ExpressVPNでは、日本人のAIアイドルに対する認識を調査するため、10問のアンケートを行いました(有効回答数3,008名)。今回のアンケートでは、現状AIアイドルの好感度が2割程度に止まっていること、一方で、AIアイドルに恋心を抱いたことがある人が約5%いることなどが明らかになりました。さらに、自分にそっくりなAIがいても、6割の人は何もしないという結果に。早速詳細をご覧ください。

最近よく見るようになった「AIアイドル」についてどう思いますか?

「今後の活躍が楽しみ」「好き」「興味はある」と、好意的な回答した人が21%であるのに対し、「気味が悪い」「好きではない」「関心はない」と否定的な回答をした人が約79%という結果になりました。AIアイドルの好感度としては、まだ2割程度に止まったことになります。

AIアイドルを見た時、本物の人間だと思いましたか?

37.5%の人はAIアイドルを本物だとは思わなかったという結果に。私たちはAIアイドルを見ると、どこか生身の人間とは違う印象を覚えるのかも知れません。

AIアイドルへ恋心のような感情を抱いたことはありますか?

回答者の51.4%が恋心を抱いたことはないと回答していますが、5.3%の人はAIアイドルへ恋心のような感情を抱いたことがあるそうです。将来のAI技術の発展で、AIアイドルがよりリアルになった時、この数字がどのように変わっていくのかは興味深いところです。

AIアイドルを見た時、誰かに似ていると思ったことはありますか?

AIアイドルは大衆受けする容姿を前提にデザインされることが多いため、どこかで見たことがある、と12.5%が答えるのは不思議ではないかも知れません。

自分好みのAIアイドルを簡単に作成できたら、作成したいと思いますか?

AIアイドルを作成したいと思う人が13.6%いましたが、半数以上は自分では作成しなくてもいいと思っているようです。

AIアイドルのSNSアカウントをチェックしていますか?

ソーシャルメディアは、まだまだ人間がメインのツールのようです。しかし、4.7%が既にフォローしていることを考えると、これからさらに多くのAIアイドルのアカウントが増えるかもしれません。

自分にそっくりなAIアイドルが登場したらどうしますか?

自分にそっくりなAIアイドルが登場したら、6割強の人は何もしない、あるいは5.8%は嬉しい、もしくは興味深いのでシェアするという結果になりました。これは、あなたに関わる人に誤解を与えたり、世の中に思わぬ形でフェイクニュースとして利用される可能性もあり、危機感を持つべき現状かも知れません。

AIアイドルと本当の友達のようにコミュニケーションが取れたら利用したいですか?

回答者の10人に1人は、AIアイドルとインタラクティブなコミュニケーションを取ってみたい、と感じているようです。近い将来、AIアイドルの友人が複数いるのは当たり前かも知れません。

AIアイドルの登場がプライバシーの侵害や肖像権などの課題を生じていると思いますか?

AIの課題について、回答者のうち肖像権などの問題があると認識していたのは22.4%でした。

AIアイドルをはじめ生成AI登場など、近年のAI技術の著しい進化についてどう思いますか?

良いと思う、興味はあると答えたのは31%、怖い、好きではない、が32%、関心はない、が37%でした。新しい技術にどのように向き合うべきか、回答者の意見が別れました。

日本と海外のAIアイドルに関する課題

日本と海外のAIアイドルに関する課題

コスト面など多くのメリットがあるAIアイドルですが、同時にこれまでになかった課題が発生しています。ここでは、新たな3つの課題と国内外の実例について解説します。

新たな課題

1つ目の課題は、アイドルやタレントの仕事を奪う可能性が指摘されています。AIアイドルは24時間365日働き続けることができるため、コスト面では圧倒的に有利だからです。

2つ目に著作権侵害の問題があります。具体的には、生成AIによる成果物が既存の著作物と類似していた場合に侵害に当たるかどうかが焦点です。著作権侵害が認められるケースとしては、既存の著作物を元に作成された「依拠性」が重要なポイントとなります。生成AIは膨大な素材やデータを学習しているため、その中の1つの素材とAIによる成果物が類似していてもただちに「依拠性」があるとは認められませんが、もしAIアイドルの作成の過程で特定の素材を示して、それに類似する成果物の作成をAIに指示するなどしていれば、著作権侵害に該当する可能性が高まるといえるでしょう。

3つ目は倫理的な問題です。著作権法などの法的な問題をクリアしていても、道徳的に避難されるような発言や行動をAIアイドルがしてしまう可能性があります。また、前述したブラジルのフォルクスワーゲンが故人をAIによってよみがえらせた事例からも分かる通り、故人の意思を十分顧みずに、勝手にプロモーション目的に使用することにも抵抗を感じる人たちはいるでしょう。

4つ目は、個人のプライバシーや肖像権を侵害する問題があります。自分にそっくりなAIが登場し、企業のキャラクターやフェイクニュースの材料として好き勝手に利用されていたら、自分の生活に支障をきたす恐れもあるでしょう。

日本の場合

日本では今年、AIタレントにまつわる議論がいくつかありました。集英社は2023年6月7日、週刊プレイボーイ編集部が画像生成AIで作成したグラビアアイドル「さつきあい」のデジタル写真集の販売を終了しました。その理由について集英社は以下のようにコメントしました。

「編集部内で改めて検証をいたしました。その結果、制作過程において編集部で生成AIを取り巻く様々な論点・問題点についての検討が十分でなく、AI生成物の商品化については、世の中の議論の深まりを見据えつつ、より慎重に考えるべきであったと判断するにいたりました」

SNSでは、このAIアイドルにそっくりの既存のタレントが存在することが話題になっていたと言います。

また、出来上がった作品の著作権は誰の手に渡るのか、という問題もあります。2023年5月に、俳優や音楽家などで作る「日本芸能従事者協会」がインターネットで実施したアンケートにはクリエイターを中心に2万6,000あまりの回答が寄せられました。この調査では結果、回答者の94%あまりが「AIによる権利侵害などに不安がある」と回答していました。(*1)

また、あえてAIアイドルであることを言わずに、AIアイドルがはらむ危険性について警鐘を鳴らしたケースも。それが、Web広告代理店「Les」が独自に開発したAIグラビアアイドル「藤原れい」です。

当初AIであることを隠して2023年5月にインスタグラムでデビュー。わずか1ヶ月半で1万フォロワーを獲得し、ほとんどの人たちはAIであることに気付かず、モデル依頼や芸能事務所からのスカウトも相次いだと言います。

Lesは2023年11月に正式に「藤原れい」がAIであることを発表し、その意図について次のようにコメントしました。(*2)

「今回、AIであることを隠したのは『社会への警鐘』という側面があります。今後、AIの技術が上がるにつれ、悪用されたり、犯罪に使われたりする可能性も十分あります。AIの魅力だけでなく、『騙される危険性』も伝えていかなければいけないというメッセージも込めて、あえてAIであることを隠した発信を始めました」

海外の場合

2023年、ハリウッドでは43年ぶりに大規模なストライキが行われました。参加した俳優たちは16万人にも上りましたが、ポイントになったのが生成AIの使用でした。

例えば、映画製作の際、ある俳優に1日分だけの給料を支払い、顔など全身をスキャンします。撮影の際には実際に俳優が現場で演技をしなくても、スキャンしたデータをもとにAIが演技をし、編集することでコストを大幅に削減できるのです。

作家のニーナ・シックによると、2025年までにハリウッド映画の90%は、少なくとも一部をAIが生成するようになる可能性があると予測されています。

また、生成AIの開発企業である「OpenAI」や「Midjourney」、「Stable AI」に対しては著作権で保護された作品が「AIが学習する際に読み込まれた」として、数々の訴えが提起されています。

しかし、こうした動きと反比例してハリウッドだけでなく、世界のメディア・エンターテインメント企業の96%が、生成AIへの投資を増やす計画です。

このような状況から、今後もAI活用に関する課題が各国で発生することが予想されるでしょう。

AIアイドルの課題に対する専門家の解説

生成AIと著作権の問題について詳しい、法律事務所ZeLo・外国法共同事業の島内洋人弁護士(*3)は、AIアイドルの課題、そしてAIタレントの作成や使用にあたって配慮すべきことについて以下のように解説します。

島内氏「生成AIを用いたアイドルの創造にはビジネス・カルチャー上の大きなポテンシャルがあると思われる一方で、法律面の整理も必須です。

著作権の問題のほか、肖像権・パブリシティ権にも注意が必要です。肖像権とは無断で自分の肖像をみだりに利用されない権利です。生成AIを用いてアイドルを生成する際に、特定の人物の写真を素材として使用しているような場合には、肖像権侵害に該当しないか慎重に検討する必要があります。

また、パブリシティ権にも注意が必要です。パブリシティ権は、著名人の肖像等が消費者を惹きつける力を持っていることに鑑みて、その肖像等の無断利用を一定の場合に制限するものです。生成AIを用いて生成したアイドルが特定の著名人と酷似しているような場合には、パブリシティ権侵害のリスクがあります。

また、肖像のみならず、AIアイドルの声や話し方などをAIで生成する場合にもパブリシティ権などへの配慮が必要ですが、そうした声や話し方の権利に関する議論はあまり進んでいません。

AIアイドルに関する法的議論はまだ始まったばかりですが、技術進化の目まぐるしいスピードに遅れを取らず議論が深化していくことが期待されます」

まとめ

生成AIはエンターテインメントをあらゆる面から変革しており、AIアイドルもその1つといえるでしょう。ユーザーの好みにもとづいて、低コストで安定的に稼働が期待できるAIアイドルがマーケットからますます必要とされる可能性は高く、今後もさらなる進化を遂げることが予想されます。

他方でプライバシーの問題や著作権の侵害など、まだ法的な整備が不十分な部分もあります。さらに法的にいかに問題が解決されても、倫理的、道徳的課題も残されます。「AIアイドル」は専門家だけでなく、ユーザーを含めて、さまざまな視点を持つ人たちによって議論されていくべき問題といえるでしょう。

*1:  NHK WEB特集「私の写真が知らぬ間に?!AIグラビアが浮き彫りにしたリスクは」

*2: Les株式会社 プレスリリース「騙された」の声が続出?!1か月半で1万フォロワー超の美女は実はAIだった!

*3: 島内 洋人 弁護士について

島内 洋人 弁護士(第二東京弁護士会所属)
法律事務所ZeLo・外国法共同事業

2017年東京大学法学部卒業、同年司法試験予備試験合格。2018年司法試験合格。2019年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2020年法律事務所ZeLo参画。多くのブロックチェーン技術を用いたビジネスのリーガルスキームの整理・構築に携わるほか、生成AIに関しても研究・実務を行い、所内「AI Practice Group」にてチームリーダーを務める。主な論文に「ステーブルコイン・DeFiとCBDC」(金融・商事判例1611号、2021年)、主な講演に「生成AIの法的論点 最新事例を交えて解説」(株式会社LegalOn Technologies、2023年4月)「生成AI×著作権 法的論点と最新トレンド」(株式会社LegalOn Technologies、2023年6月)など。

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